親から相続した土地に建物が建っているのだが、法務局で調べても
建物の登記簿が見当たらないという相談を受けることがあります。
「見当たらない」とはどういうことなのか。
古い建物の場合は、単純に検索が困難であるケースは多々あります。
典型的には、建物が建った後に、何回かにわたって敷地が分筆された結果、
建物の家屋番号と敷地の地番が対応しなくなってしまうケースです。
確かに、全く異なる数字になってしまった場合は探すのが困難ではありますが、不可能ではありません。
古い記録をたどっていけばいずれ見つかります。
ところが、どんなに探しても見つからないことがあります。
それは、その建物が建てられた時に登記がされていなかった、
つまりそもそも登記が存在しないというケースです。
このような建物を「未登記建物」といいます。
もちろん、未登記建物のままでも、間違いなく自分の親の所有であり、
今後も売却することなくいずれ解体するというのであれば問題はありません。
(だからこそ今まで未登記の状態であったのでしょう)
しかし、この建物を売却したいという場合には話が別です。
建物の所有権の登記を移転しなければなりませんが、そもそも建物自体の登記がないため、
所有権の移転登記を行いようがありません。
また、建物を解体したいという場合であっても、建物が自分の親の所有ではなかった
(あるいは所有者がよく分からない)には、勝手に解体するわけにもいきません。
せめて登記があれば、そこに記載されている者を一応の所有者として扱うことができるのですが…
今回は、このようにやっかいな「未登記建物」の処理の話です。
未登記建物とは
そもそも、なぜ「登記されていない建物」が存在するのでしょうか。
不動産登記法では、建物を新築等した場合には、必ず登記(表題登記)を
申請しなければならないと定められています。一応罰則があります。
この申請により、建物の基本的な情報(建物の建っている場所や、建物の構造・床面積などの情報)が法務局に記録されます。
また、通常はこれとあわせて所有権の保存登記(所有権に関する登記)が行われます。
しかし、銀行ローンによらず自己資金で建てる場合に、登記費用(土地家屋調査士さんの費用)が
もったいない、固定資産税を払いたくないなどの理由で新築の登記をせずに放置してしまうケースがあります。
※なお、登記をしなければ固定資産税を免れることができるわけではありません。市役所(資産税課)は、
法務局とは別に独自の調査をして課税するからです。
ローンを利用しない場合には登記手続は不要ですし、その時点で建物を譲渡する予定がなければ
登記がなくとも特に問題がないからです(もちろん不動産登記法上は違法ですが)。
このようにして登記のない建物が誕生するわけです。
登記がなくとも、当初は特に問題ありません。しかしその後数十年の時を経て、
その建物の所有権を移転(売却・贈与など)させようする際や、解体しようとする際に問題が表面化するのです。
売却などの際に問題になるのは、最初の所有者の登記がないために、このままでは
「所有権を移転させる」という登記ができない、という点です。
未登記建物の売却
この問題を解決するためには、さかのぼって「親が建物を建てた」という登記をする必要があります。
この手続は、一見簡単なようにも思えますが、実はけっこう面倒です。
実際に必要となる手続の概略は、以下のとおりです。
(なお、単に「登記」と説明していますが、正確には「表題登記」(建物の所在や構造・床面積などの情報に関する登記)と
「所有権保存登記」(その建物の所有権が誰にあるのかという登記)の2種類の登記を行う必要があります。
もっとも、表題登記ができればほぼ問題はクリアされますので、以下では表題登記について説明します。)
「父が建てた建物について、現在の所有者(父を相続した子供)の登記を行う」という事例を考えてみます。
この場合、登記に際し①建築当時父が間違いなく所有者であったことと、
②子供が間違いなく相続したこと、の二点を証明する必要があります。
①の建築当時父が間違いなく所有者であったことを証明するためには、原則として建築当時の書類が必要になります。
具体的には、建築確認を受けていれば建築確認通知書、確認済証、さらに完了検査を受けていれば検査済証などです。
しかし、これらの書類が残っている事例はあまりないでしょう。
上記の建築確認関係書類が残っていなければ、建築請負工事に関する契約書類、
代金の領収証や、業者による引渡証明書などが必要になります。
つまり、父が建築工事を依頼したことを証明することで、所有者であったことを間接的に証明するわけです。
さらにそれらもなければ、敷地の所有者やその建物にかつて住んでいた人、
あるいは隣地の所有者による証明書や、公共料金の領収書や固定資産税の納税証明書などが必要になります。
さらに間接的になりますが、このような事情を積み上げて父が所有者であったことを証明します。
次に、②の子供が間違いなく相続したことについては、通常の相続案件の必要書類と同様、
各種戸籍類や遺言書、遺産分割協議書などで証明できます。
上記のような書類を用意した上で、さらに建物の図面やその他必要書類と併せ、法務局に対して登記の申請を行うことになります。
未登記建物を解体したい
売却ではなく解体する場合は、その建物が間違いなく父親の所有であったのなら問題ありません。
相続人が所有者になりますので、自分で解体すればOKです
(ただし、そのままでは翌年度の固定資産税が課税されてしまう可能性がありますので、
解体したら直ちに、市役所に家屋滅失届を提出しましょう)。
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問題は、建物が他人の所有であった場合(所有者が誰だか分からない場合を含む)です。
他人の建物を勝手に解体することは建造物損壊罪(5年以下の懲役)という犯罪にあたりますし、
民事上も、所有者から損害賠償請求を受けることになります。
長年放置されていた建物であれば、被害者が名乗り出てくることなどないだろうと思いがちですが、
法律上はこのような責任を負うリスクがありますので安易に解体すべきではありません。
登記があるかどうかと、誰が所有権を持っているかは、あくまで別の話です。
したがって、この場合でも解体するには所有者の承諾を得る必要があります。
地道に所有者を調査して交渉を行い、承諾を得なければなりません。
(ただし、登記がない分、所有者の調査には手間がかかりますが…)
なお、交渉に応じられなかった場合には、最終的に訴訟で解決することができます。
長年放置されていた建物であれば、その建物が建てられた当時の権利(借地権や使用借権など)は
消滅していることが多いと思われます(その法的根拠については長い話になるので割愛します)ので、
建物の所有者に対して土地の明渡請求訴訟を行い、訴訟手続の中で解決を図ることになります。
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生きてるうちに手続を
このように、登記のない建物については、建築当時はよくとも、その後の相続などを契機に問題が生じることが多いです。
建築からさほど時間がたっていなければ必要書類も残っていることが多いので、
面倒がらずになるべく早めに登記をしておくことが重要です。
時間が経てば経つほど資料も少なくなりますし、手続の負担も大きくなります。
子・孫の世代にそのような負担を及ぼさないよう、やはり今のうちに処理しておくべきです。